そうして落ちるばかりだ
戦場というものは世の中の縮図だ。強いものが弱いものの命と未来を奪う。自分が生き残るために誰かを蹴落とし、武器を手に取り傷つける。時には親・兄弟を踏み台にして自分の命だけを守り続ける場所。人がヒトたる理性を破壊する、血なまぐさい場所。
「そんな場所に君はいつまでも綺麗事を見出そうとする。実にご苦労なことで」
私は体を切り裂くような冷たい風に身震いしながら言う。この上杉の支配地はひどく寒い。その上、今にも泣き出しそうな鈍色が天を覆っている。ひゅうひゅうと寂しげな秋風が雪国の冷たさを際立たせていた。
「ここに義やら愛やらの君の望むものは何もない。君の信じるものは偶像でしかないのよ」
『義、義とうるさい』とよそでも評判の兼続はこの土地の出身だからか、顔を青白くすることも風に体を震えさせることもなくただ平然と、「そうか」と一言だけ答える。私はそれが少し意外だった。この男のような種類の人間は自分の信じているものが少しでも貶されると怒り狂うことが多かったからだ。私のように、己の信仰に等しいものを馬鹿にされることに慣れているのだろうか。
「どうしてそう言い切れることができるのだ」
次は報酬が安くても温かいところに行こうと決意したのは、そう答えた直後にくしゅんとくしゃみをしてからだった。このままでは戦で怪我をする前に風邪を引いてしまいそうだ。
「それなのに、お前は偶像を信じる私と共に戦うのだな」
簡単に嘘をつき、惑わして、裏切ってしまうのがヒトという動物である。
そう私が言うと兼続は隠すこともなく困惑の表情を出す。彼のような聖人様には、俗物にまみれた私のような人間が不快だったのだろうか。
「……それじゃあ、失礼するわ。ここは寒くて不愉快だから」 |